2025年は、コロナ禍におけるロックダウンの影響が本格的に解消され、様々なアーティストの来日公演が行われた1年だったように思う。そして、ジャンルを問わず本当に沢山の素晴らしい作品がリリースされた1年でもあった。筆者自身、Bandcampだけでも2000タイトル以上の楽曲を購入し、そして聴き込んできた。その中でも、トラック単位ではなくアルバム/EP単位で特に聴き込んだ2025年リリース作品をいくつかご紹介したい。
UK北部の都市リーズに拠点を置くレーベルShades Of Sound Recordingsから1月にリリースされた4曲入りEP。90年代の初期ITALO HOUSEにインスパイアされたという本EPは、どの曲も水の流れる音から始まり、幻想的で優雅な印象がありながら、ダンスミュージックとしてもしっかり機能する。Joe MorrisによるレイドバックでBALEARIC感溢れるRemixも秀逸。
ロンドンを拠点に活動するクリエイターチームShall I Bruk It。レーベルを持たず、ひたすらセルフリリースを重ねる彼らは、パーソナルな情報がほぼ出て来ず、誰かの別名義ではないかと噂されることも多いが、素晴らしいBRUK EDITを数多く世に出している。2月にリリースされたこの1枚は、Nina Simoneの名曲達をダンサー好みなBROKEN BEATへと見事に再構築している。
ボルチモアを中心に活動するDJ Wm JことWilliam Curtis。30年以上のキャリアを持ち、Cyberjamzなどの老舗レーベルからもリリースしている。Bandcampでは所謂Bootleg作品を数多くリリースしており、3月にリリースされた本アルバムもBootleg Edit物ではあるが、SOULFUL/AFROな音を軸に、New Jersey感に溢れるフロアユースなEDITを多数披露している。
Jeff Mills率いるElectronic Jazz Quartet、Spiral Deluxeの7年振りとなるアルバム。Moogシンセの魔術師と評される大野由美子、伝説的トランペッターを親に持つベーシストの日野“Jino”賢二、URのメンバーであるGerald Mitchellがキーボードを務める。素晴らしいゲストアーティストも多数参加しており、即興演奏が持つ魅力をしっかり感じることが出来るアルバムとなっている。
南アフリカのソト族の血を引くビジュアルアーティスト兼シンガーZola Marcellのデビューアルバム。Nubiyan Twistのメンバーとして活躍するLewis Moodyがプロデュースを務めた本作は、SOUL/BROKEN BEAT/AFRO BEAT/JAZZなど様々なエッセンスが取り入れられ、カラフルでありながらどこか厳かなZolaの歌声が映える。まるで小説を聴いているかのような感覚を覚える1枚。
UKのFUNKコレクティブであり、2019年のデビュー以来、ソングライター兼プロデューサーのInfroとシンガーCleo Sol以外の情報はクローズド、その詳細については謎に包まれているSAULT。近年のリリースでは実験的で宗教的な楽曲が多かったが、本作は原点であるR&Bに回帰。MJやFela Kuti、P FUNKなどにインスパイアされたフレーズが散りばめられ、全編通して聴きやすい構成となっている。
南アフリカのソウェト出身であるXolani ‘Mangiii’ MkhwanaziとMpho ‘Mactpnic’ RamphelaによるデュオユニットRVBB3R BVND。Bandcampでのセルフリリースが主な活動であり、まだあまり知られていない存在ではあるが、美麗でスピリチュアルなメロディーとAfroismを感じるグルーヴィーなドラムパターンを用いたDEEP HOUSEを得意としている。本アルバムは、その特徴が存分に味わえる1枚。
ニュージーランド出身で、現在はロンドンを拠点に活動する、Ben & Louis兄弟によるユニットChaos In The CBD。デビューから15年を経て初めてのリリースとなるフルアルバム作品。AMBIENT、BOSSANOVA、BALEARIC、DEEP HOUSEなど、彼らの通ってきた音楽遍歴が感じ取れる構成となっている。休日にゆったりと、そしてじっくりと聴き込みたくなるアルバム。
Rush Hourから5月にリリースされ、多くの人が2025年のベストアルバムとしてその名を挙げる、Ron Trent – Lift Off。思わずアルバム単独のレビューを書いてしまう程の完成度だった本作。特にStreet Waveに関しては、世界中のパーティーでピークタイムを彩り、日本国内でもBody&SOUL JapanでのJoe、HDCでのCofloなど、多くのDJ達がここぞというタイミングでプレイし、フロアを熱狂させた。
ベーシストのVirgile Raffaëlliが率いるフランスのCOSMIC JAZZ FUNKバンドAldorandeの3rdアルバムであり、Cosmic Trilogyというテーマを掲げた3部作の最終章。Azymuthの後継とも評される彼らは、70年代のJAZZ / FUNK / FUSION黄金期のサウンドを現代に語り継いでいる。本物のアナログサウンドを追求するため、本作ではテープレコーディングを採用。温かみのある音を堪能することが出来る。
短い休止期間を経てリリースされた、Osunlade待望のフルアルバム。アナログ要素と電子音の融合をテーマにした本作は、タイトルが示す通り招待された者だけに焦点を絞るかのような、オーガニックで中毒性のある、所謂玄人好みな楽曲達が収録されている。WYRBスタイルに倣い、薄暗い部屋でローソファに座り、ラバーライトを眺めながら聴きたい1枚。
ORGANIC HOUSEやWORLD MUSICを得意とするイタリアのDidje Dooが、NYCの名門レーベルTurntables on the Hudsonからリリースしたアルバム。温暖化によって地中海エリアが熱帯のような気候へと変化しつつある現状を、皮肉や絶望ではなく、サウンドガイドとして捉えた意欲作。熱気の中にほのかに感じる地中海サウンドが心地よく、太陽と砂を感じるような作品となっている。
今年初来日で見事なライブを披露したMadison McFerrinの最新アルバム。自身のマネージャーでもあった婚約者との別れをきっかけに、貯めていた結婚資金の全てをこのアルバムの制作費に投入するというぶっ飛んだエピソードがある。自身の声を何層にも重ねたボーカルレイヤーがやはり厳かで見事。失恋ソングが多い本作ではあるが、再生へと向かうポジティブなエネルギーを受け取れる。
シカゴのHOUSEシーンにおける重鎮の1人Vick Lavenderと、JAZZピアニストのJustin Dillardの合作アルバム。Vick Lavenderの緻密で洗練されたリズムプログラミングのうえをJustin Dillardの自由奔放なキーボードが走る、ライブ感に溢れた1枚。収録されているどの曲も素晴らしいが、高揚感と哀愁のバランスが秀逸なTime & Time Againが本当に素敵。
New Jerseyを拠点に活動するDJ/プロデューサーのDavid “DASHDONE” Shell。レーベル契約はせず、セルフリリースのみで活動する彼は、ローカルシーンではDJ’s DJとして知られ、ダンサブルなトラックにSOULFUL/AFROな上物を被せていく、まさにNew Jerseyといったサウンドを提供している。本作ではFela KutiやMJなどの大ネタをフロアユースなEDITとして披露。
IncognitoやThe Brand New Heaviesなどの系譜を継ぐSoulpersonaとUKのトップJAZZトランペッターBryan Corbettによるコラボレーションアルバム。まるでボーカルのような存在感を放つトランペットが、多様な物語を見せてくれる。80年代のJAZZ/FUNKをベースに、現代のアーバンな雰囲気を取り入れた、大人のためのダンスミュージックと呼べる作品。
もはや説明不要であろう、SHELTER総帥であるTimmy RegisfordがNYCの老舗レーベルNervous Recordsからリリースした最新のオリジナルアルバムRhythm & Beyond。重く地を這うようなキックと反復するリズム、複雑なパーカッション、スピリチュアルなチャントなど、シグネチャーサウンドが満載。アフリカ回帰でありHOUSE回帰ともとれる、キャリアの集大成を感じる仕上がり。
リリース数こそ少ないものの、多方面から絶賛されているレーベルPond Life recordsの一員で、ロンドンを中心に活動するピアニスト&サクソフォニストHumble B Flat。世界中のLOFTスタイルパーティーで絶賛されている本作は、SPIRITUAL JAZZの要素を下地に、DEEP HOUSEやBROKEN BEATを展開。オリエンタルな雰囲気のダンスミュージックを堪能出来る。
BeyoncéのRemixでグラミーを獲り、シカゴレジェンドとしても名を知られるMaurice Joshuaが手掛けるJAZZバンドSoul By Choiceの1stアルバム。普段の彼の作風からはなかなか想像が出来ないが、王道といえるSMOOTH JAZZを見事に披露している。優しく柔らかい音が、リラックスしたい、チルしたい時にしっくり馴染む。
シカゴの名門Excursionsレーベルからリリースされた、デトロイトの新星Lorenzo Dewberryの、個人名義では初となるデビューEP。Ron Trentに通ずる、スピリチュアルで奥行きのあるDEEP HOUSE作品。Anthony Nicholsonによる見事なSOULFUL HOUSE Remix、BALEARICなFree Your Mindと、デビュー作とは思えない完成度を誇る。
イタリアのプロデューサーFabrizio Fattoreが新たに立ち上げたレーベルLife Cycle。そのレーベルローンチタイトルを飾るのがこのMagic Happens。Life Cycleはレーベルテーマとして「人生と音楽の神聖なる結びつき」を掲げるが、まさにそれに見合う、スピリチュアルで神聖な音が堪能出来る。ライティングの美しいフロアで聴いてみたくなる1枚。
SOULFUL HOUSEシーンを牽引するNew JerseyのDJ Beloved。そんな彼が満を持して立ち上げたレーベルBPM Recordsからリリースされている、若手プロデューサーや身近なファミリーをHOOKし、共作することをコンセプトとしたA Room Full of Smokeシリーズ。Bootlegではあるが、R&BやJAZZ、SOULの名曲をダンサブルなSOULFUL HOUSEへと昇華している。
HIP HOPとJAZZをルーツに持つUKの女性DJ/プロデューサーKASIAのデビューEP。これがデビュー作とは思えない高クオリティのBROKEN BEAT作品となっており、CoOperation Recordsリリースと言われても違和感が無い仕上がり。女性やノンバイナリーのプロデューサーを支援する女性主導の音楽制作コミュニティbetween:sessionsも手掛けており、今後の活躍が気になる逸材。
イタリアのHIP HOPシーンでレジェンドと呼ばれるグループSangue MistoのメンバーであるDedaの別名義Katzuma。そしてKatzumaとよく制作を共にする素性不明の音楽家集団Okéによる4曲入りEP。Katzumaの作り出すFUNK・HOUSEのグルーヴと、Okéのオーガニックな演奏が綺麗に融合した1枚で、聴いて良し踊って良しなDEEP HOUSEを楽しめる。
BrooklynのHOUSEミュージックシーンの未来を担うデュオユニットMusclecarsと、同じくBrooklynで活動し、可変型バンドConclaveを率いるマルチミュージシャンTrobioによるタッグ作。リードタイトルであるThat’s My Storyでは、New JerseyのHOUSEシーンにおけるヒーローRoland Clarkを起用。美しくも力強いSOULFUL HOUSEとなっている。
Bugz in the AtticのプロデューサーAfronautと、シルキーな歌声に定評のあるシンガーJust Oneによるコラボレーションタイトル。2005年に制作され、長らくアーカイブされていたこの音源を、UKの名門レーベルMakin’ Movesが発掘、20年の歳月を経て世に放たれることになった。2021年に他界してしまったRestless SoulことPhil Asherによる貴重なRemixも収録されている。
Yoruba RecordsオーナーであるOsunladeによるBootleg Remixを扱うYoruba Soul Mixes。Bootlegという特性から、Bandcamp以外では取り扱われることが無いシリーズではあるが、毎回良質なRemixを発表している。そんなシリーズの20作目となる本作は、往年のHOUSEファンならつい反応してしまうYou Make Me Feelのカバーネタを披露。
2000年代初頭に名門Blue Noteと契約したグループTroublemakersの創設メンバーである、マルセイユのDJ OilことLionel Corsini。そんな彼が、音楽によるトリップや瞑想を主題とするレーベルMulti Cultiからリリースしたアルバム。本作はダンスフロアを通じて聴かせることを意識した作りになっており、身体を揺らせる曲が多くなっている。
ロンドンで活動するDJ/プロデューサー、そしてマルチミュージシャンであるOliver Nightが、Tru Thoughtsレーベルからリリースした1stアルバム。UKで活躍するアーティストが多数参加し、西ロンドンエリアにおけるBROKEN BEATシーンの今を詰め込んだようなアルバムとなっており、そのシーンにおける標語、BRUK and SOULの雰囲気が見事に体現された1枚。
AFRO、LATINとFUNK、DISCOの融合を図るイタリアのレーベルSamosa Recordsからリリースされた、恐らく新星であろうAnura & Sr. LobeznoによるAFRO BEAT、AFRO HOUSE作品。リードタイトルであるAfro-Ritmoはオリジナルも良いが、レーベルオーナーであるDe GamaによるRemix版のギターリフがとても良い。
ロンドンの老舗レーベルHyperdubに所属するIkonikaことSara Chenによるフルアルバム。従来はあくまでプロデューサーとしてのクリエイティブであったが、今作ではプロデューサー・ソングライター・シンガーと全ての役割をこなした。AmapianoやGqom、Bacardiといった南アフリカ音楽のエッセンスを取り入れながら、彼女でなければ作れない哲学的な世界観を披露している。
Mother Tongue Records総帥である、イタリアのPatrick Gibinによる2024年傑作アルバム”Strength In Numbers“から3曲を抜き出し、Joe Claussellが再構築したRemix EP。Ron Trent – Lift Offと同様に、本タイトルも別記事で取り上げさせてもらっているので、詳しくはそちらを読んでもらえればと思うが、なによりもまずは聴いてみてもらいたい。
Isoul8やVolcovとして活躍するEnrico Crivellaroがオーナーを務め、良質なDEEP HOUSEを多数リリースしてきたイタリアの名門レーベルNeroliが、設立25周年を記念してリリースしたコンピレーションアルバムThe Second Circle。Zopelar、Lars Bartkuhn、Joe Claussell、Claude Young Jr.など、豪華過ぎる面々が参加。壮大なサウンドトリップに浸れるアルバムとなっている。
Vinylリリースが完売続きで絶好調なサンフランシスコのレーベルFatsouls Recordsからリリースされた、Ron Trentの愛弟子と呼ばれて久しいTrinidadian DeepのEP。土着的でありながら精密に組み込まれたパーカッションとジャジーなベースライン、そして美しいキーボードという、Trinidadian Deepの良さが詰め込まれた良作EP。
今年ついに自身のレーベルAnima RECORDSをローンチした、New JerseyのConway Kasey。レーベル設立後もBandcampでは相変わらずBootleg Editアルバムをリリースし続けており、12月17日にリリースされたばかりの本作は、冒頭のKnights Of The Jaguarネタ、それに続くDecemberのEditがとにかく素晴らしい。元々HOUSEダンサーだったという経歴が故か、つい踊りだしたくなるサウンドが堪らない。ちなみに、彼の作品は期間限定リリースが多いので、お買い求めはお早めに。
さて、ほんの軽い気持ちで書き始めたこの記事ではあるが、この35曲を綴るのに1週間も掛かってしまった。Traxsource限定タイトルやVinyl限定タイトルなど、紹介したいアルバムやEPはまだまだ沢山あるのだが、これ以上は私生活に支障が出かねないので、ここで筆をおきたいと思う。
ちょっと掘るだけで、知らない音楽が大量に溢れ出てくる昨今。来年は一体どんな素敵な音楽に出会えるのだろう。これからも音を楽しんで生きていければと切に願う。
